日光の農業を担うネクストジェネレーション

日光市だからこそ求められる観光イチゴ園

日光市芹沼にある観光イチゴ園「日光ストロベリーパーク」。2008年にオープンした日光市初の観光イチゴ園です。広大な圃場に連なるビニールハウスは32棟。土耕栽培のハウス24棟のほか、車椅子やベビーカーでもイチゴ狩りが楽しめる高設栽培のハウスが8棟あります。バスが入りやすい広い道路や駐車場も整備されており、今や日光市随一の観光イチゴ園として、日本人のみならず外国人観光客も増加の一途。ハイシーズンの土日には2000人を超える来場者が訪れます。経営するのは日光市出身の沼尾浩明さん。ご両親は米と大豆の生産農家ですが、沼尾さんは光ファイバーを製造する会社に約7年勤めてからの就農。しかも、日光市では栽培実績が殆どなかったイチゴを手がけた先駆者でした。

「この場所の農地基盤整備が行われると知って、観光イチゴ園をやろうと考えたんです。ここならバスも入れますし、日光は観光地なのでこの立地ならいけると思って」。

日光市でのイチゴ栽培は試行錯誤の連続

始めるにあたり、沼尾さんは栃木県の技術研究施設「いちご研究所」で約1週間研修を受けました。そして、2004年に最初のハウス6棟を設置。あとはいちご研究所や県内のイチゴ農家にも随時話を聞きながら、3年間は観光イチゴ園開設の準備期間にあて、品質の向上や施設の整備に務めました。そして、2007年には高設栽培のハウスも作り、いよいよ翌年から観光イチゴ園としてスタート。ただ、冷涼な気候の日光市ゆえに、難しさもあったと振り返ります。

「いちご研究所は県南の栃木市にあります。北と南では気候が異なるので、研究所のデータが参考にならない部分もありました。でも、イチゴは積算温度で赤くなるので、寒い日光では大粒で甘くなることがメリットです」。

暖房を使う期間は12月から5カ月間。そのほか、土耕栽培のハウスでは生育を促すため土の中にお湯が通るパイプが埋設されています。また、光合成を促すCo2発生装置はガスも使うので、ワンシーズンで燃料代は約700~800万にも及ぶそうです。

「知人にはアスパラやニラにすればいいのに。と言われましたね。燃料代がこんなにかかりませんから」と苦笑する沼尾さん。「辛くてもやるしかない」と踏ん張り、施設の改良にも独自の工夫を重ねました。

来園者への細やかな配慮と高い栽培技術が評価される

日光ストロベリーパークは高設栽培のハウスやトイレのバリアフリー化など、高齢者や障がい者、乳幼児連れの人もイチゴ狩りを楽しめる点が高く評価されています。また、コートハンガーの設置や、来園者の衣服や靴が汚れにくいよう通路を養生するきめ細やかな配慮も他の観光イチゴ園とは一線を画しています。加えて、農薬・化成肥料の使用料を慣行栽培の半分以下に抑えるLink-Tの認証など高い栽培技術も評価され、JA全農の2018年日本農業大賞で沼尾さんは大賞を受賞しました。

沼尾さんは、これからイチゴ栽培を始める人に対して「最初から大面積にせず収量が上がってから拡大するか、小面積でもこだわりのあるイチゴを作ったほうがいいでしょう」と助言。理由のひとつはハウス作りに要する資材価格の高騰です。また、規模を拡大すれば作業も増え、人手も必要です。栽培や接客以外に加工品の取扱いなどもあり、全体を管理する高いマネジメント能力が問われるのは言うまでもありません。そんな沼尾さんにとって一番大切なものは?と尋ねると「人とのつながりですね。販路の確保も情報も人とのつながりで得られています」。

農業とは一人ではできないからこそ、頑張れるのかもしれません。

沼尾浩明さん(43歳)
プロフィール
日光市出身。日光ストロベリーパーク 代表取締役。2004年よりイチゴ栽培を開始。2008年に日光初の観光イチゴ園を開園し、人気の観光スポットに。近年外国人来場者も増加中。2018年に日本農業大賞を受賞。